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藤原新也著 「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」 を読んだ。



14編のお話が収められた短編集。
ささやかな日々、深く静かな声、愛と別れの一瞬と永遠の物語。
フリーペーパー誌に連載中から読者の静かな共感と深い感動を呼んだ、
藤原新也の新境地。最高傑作の呼び声高い1冊。


ご本人もあとがきに書かれておられますが、

これまでの藤原氏の著書のものとは、風合いが異なる一冊だ。

(「メメント・モリ」しか私は知らなかったのですが)


このところちょっと、「いい小説」に出会えず、

作り物の大掛りな恋愛や友情やミステリーに飽き飽きしてきていた私にとっては、

この14話は、どれもこれもが胸にキュンとくる一冊でした。



表題となっている「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」というお話は、


大学を出て企業に勤めたがパソコンばかりに向かう毎日が嫌になり退社し、

ネットカフェ難民となってしまった青年のお話。

青年は、東京での暮らしを捨てて九州の小島での暮らしを始める。

親とも友達とも縁が切れ、島でも誰かとつきあいをすることもせず、一人孤独な毎日を過ごしていた。

そんな時に、東京でほんの少し関わりあった女の子から一通の手紙が届く。

その一通の手紙は、島にやってきてはじめての人との交わりらしい交わりだった。

文面を読んだ時、青年の心に変調が生じる。

乾いた砂に一滴の水が吸い込まれるように、孤独の仮面をかぶり続けていた気持ちに人恋しさが募ったのだ。

そして、青年は、手紙の裏面の彼女の名前と住所をしげしげと眺め、

……行ってみようかな。

ふと、そう思うのである。


電車を乗り継ぎ、そこへやっとたどり着いたその場所は、

なんと、何もない原野。

そこに広がっていたのは、白や薄紫やピンクのコスモス畑だったのだ。


その情景を眺めながら、彼は、ふと渋谷のマックでの彼女との会話を思い出す。

「僕が生まれた街のはずれにはコスモス群生地があってね。

 小学校の帰り道によく女の子とかくれんぼをしたんだ。

 『ライ麦畑でつかまえて』って小説があるけど、コスモス畑でつかまえて、って感じで。

 だけど、その女の子は二年の春に転校していなくなってしまった。

 そんな年頃だと恋愛感情なんてないはずなんだけど、

 毎年秋になって下校時にコスモスの群生地のそばを通ると

 すごく哀しくなってしまうんだ。

 背の高い野生のコスモスが秋の風に揺れているのを見ると

 今にもそこからあの女の子が笑いながら出てくるような気がして

 気がボーっとして立ちすくんでみていたこともあった。

 だけど、そのコスモスの群生地も造成され、今は寒々とした工場の資材置き場になってるよ。

 こうして世界の美しい場所や思い出は人間の営利のために次々に壊され、

 僕らはこうして都会のネットカフェに追い詰められていくのさ。」



多分、、、、大掛りな恋愛小説ならば、

この二人が劇的な出会いを果たし……というような展開になってゆくのであろう、と思う。

でも、現実はそうはならない。

彼は、ただそこに立ってコスモス畑を眺めるだけ。

だからといって、何も始まらないわけではない。

だって、彼の心の中は確実に変化しているから。


…そんな一瞬が胸にキュンと響いてきて、なんともたまらなく切ない気持ちになるのです。


あとがきに藤原氏はこう書いておられます。


人間の一生はたくさんの哀しみや苦しみに彩られながらも、

その哀しみや苦しみの彩りによってさえ人間は救われ癒されるのだ、という

私の生きることへの想いや信念がおのずと滲み出ているように思う。

哀しみもまた豊かさなのである。

なぜならそこにはみずからの心を犠牲にした他者への限りない想いが存在するからだ。

そしてまたそれは人の中に必ずなくてはならない負の聖火だからだ。



この一冊を読んでいると、負の聖火というものの意味がとてもよくわかるのです。

何か、今の世の中、「勝ち組にならなければならない」「幸せにならなければならない」

という強迫観念みたいなものにとても支配されてしまっているように思う。

幸せを追求するあまり、自分が不幸であることは、誰か(何か)のせいだと感じてしまう。

でも、人生なんて喜びに満ち溢れているわけがないのです。

みんな哀しみを抱えて生きているのです。


そして、その哀しみは決して不幸なんかではなく、豊かさなんだよ。

と、この一冊は教えてくれるのです。
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2010.01.21 Thu l 本・アート・音楽・映画 l COM(2) TB(0) l top ▲

コメント

No title
なんか、この本、
今のワタシにぴったりな感じがするなぁー
読んでみよー♪

哀しみや苦しみは、確実に人を変えると思う。
できるなら、いい方向に変わりたいね。

2010.01.21 Thu l はるっぺママ. URL l 編集
はるっぺママへ
ぜひ読んでみてください!
心に響く一話が見つかると思いますw
2010.01.22 Fri l keropaki. URL l 編集

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